アブラハムの宗教を語りたい③ キリスト教が多すぎる
第三弾です。
ちょっとずつ自分があんまり詳しくない領域に行くにつれて勉強の必要性が出現してきていますが、楽しいので続けます。
さて、このブログをご覧になっているキリスト教徒でないみなさんは、今までどのような形でキリスト教に触れてきたでしょうか。
おそらく
・チャリンコに乗って話しかけてくる二人組
・学校の前で本を配ってるおっさん
・家に来るババア
のどれかだったのではないでしょうか。
この人達はどれも一応キリスト教の一種なのですが、微妙~~~にキリスト教っぽくないところがあったりなかったりするかんじで、ちょっと反応に困る感じの人達です。
まぁ「キリスト教っぽいってなんやねん」と言われると込み入った話になるのであれなのですが、何が言いたいかと言うと世の中にはいろんなキリスト教があるということです。
とりあえず今回は「キリスト教がどうやって産まれて、どんなふうに広がって、なにがあって今どうなってんのか」みたいなことを軽く軽く解説したいと思います。
1.パウロくんの物語
ときは一世紀のイスラエル。
イエスくんがいなくなってから、仲間たちはイエスくんの武勇伝を広めて回りました。
「イエっさんはマジでパねえから!」そうやって頑張って宣教してたなか、そんな彼らをしばき倒して回る怖い奴がいました。
パウロくんです。
パウロくんは熱心なユダヤ教徒だったので、よくわかんねえことを言うキリスト教とキリスト教徒にマジでムカついていて、誰彼構わず「どこ中だコラ!」とメンチを切り、相手がキリ中だとわかった瞬間にボコボコにしていました。
当時の初期キリスト教会にはステファノくんというギリシャ人が協力していたのですが、そのステファノくんを石でボコボコにして殺しちゃうくらいの暴れん坊でした。そのくらいキリスト教が嫌いだったんです。怖いですね。
そんなパウロくん、ある日駄魔巣化巣(ダマスカス)という街に自慢の単車をすっ飛ばして向かっていました。目的は勿論キリ中狩りです。
そのときです。突然パウロくんをまばゆい光が包みました。
おそらく向かいからやってきた単車のハイビームでしょう。
驚いて思わず単車を止めるパウロくん。そんな彼に語りかける声がありました。
「オメーか?俺のダチをボコってるってガキは」
「んだコラァ!誰だテメェ!」
パウロくんはハイビームに視界が奪われながらも応えます。
「とりあえず街に入れよ。わからせてやるからよ」
「上等だオラァ!!」
パウロくんは駄魔巣化巣の街に入りました。
ところがパウロくん、さきほどのハイビームがまぶしすぎたせいか、目は開いているのに何も見えません。
「ナメやがってよお…絶対ぶっ殺してやるからよ…!」決意も新たに暗中模索でキリ中の連中を探すパウロくんですが、三日三晩飲まず食わずで探しても見つかりません。
いよいよ意気消沈してきたパウロくんのもとにある男が現れます。アナニアです。
ヒョロガリのメガネでいかにも弱そうでしたが、アナニアは紛れもないキリ中の生徒でした。
「君がパウロくん…ですね。僕たちを迫害して回ってるっていう…」
いつものパウロくんなら速攻ボコっているのですが、なんせ目が見えないので何も出来ません。
するとアナニアは訝しむパウロくんの手を取り、空に向かってこう言いました。
「イエスくん。こいつがパウロくんだよね。約束通り見つけたよ。助けてあげてよ」
するとどうでしょう。パウロくんの眼から突然うろこのようなものが剥がれ落ち、パウロくんは目が見えるようになったのです。
「これもイエスくんの力だよ。きみは精霊で満たされたんだ」
パウロくんはしばし呆気にとられましたが、やがて「イエス…オメーはマジですげえやつだったんだな……」と感心し、心を入れ替え、キリ中に転校します。そしてパウロくんは今までキリ中狩りに費やしていた力をキリ中の天下取りに注ぎ込むようになりました。
ちなみにこれが目から鱗が落ちるの語源です。
パウロくんはイスラエル世界を出て、ローマの領内でめちゃくちゃ宣教をしました。その宣教ぶりはマジですさまじく精力的で、新約聖書を構成する27文書のうちじつに13文書がパウロくんが仲間に送ったラインです。すごい。
彼はユダヤ人のための民族宗教だった初期キリスト教を、異邦人にもあまねく述べ伝えたのです。あとあまりに熱が入りすぎてほんのちょこっとだけパウロくん流の解釈で広めてしまいました。
でもそういうところがキリ中12天王の反感を買い、仲間割れしたこともありましたが、それでもパウロくんは宣教をやめませんでした。
その甲斐あってローマじゅうにめちゃくちゃ広がったキリスト教でしたが、やりすぎた結果、地元のヤクザの露尾魔組組長ネロさんに目をつけられ、拉致られて殺されてしまいます。
「イエス、ようやくテメーのツラ拝めるな……顔洗って待ってやがれよ……」
刑場に曳かれるパウロくんはどこか満足げでした。
こうして「回心者パウロ」の壮絶な伝導人生は幕を閉じたのです。
今までイスラエル世界、出てギリシャのちょっとくらいにとどまっていたキリスト教が今日世界中で信仰されているのは、イエスに直接会ってもいなければ12使徒でもない、パウロくんの宣教活動があったからなのです。
2.「キリスト教」の分裂①:大シスマ
パウロくんの活躍もありローマ領内で大人気になったキリスト教は、当時ローマの国教だったミトラ教などを押しのけ、西暦313年のミラノ勅令でついにローマの国教となります。
それから少し経ったあとにローマで教皇が誕生し、現在まで続くカトリック教会が成立しました。ユダヤ教の一分派であったキリスト教が明確に別の宗教として立脚したのです。
そんなカトリック教会でしたが、できたときからけっこう中の悪い連中がいました。
それが「東方教会」です。
当時のローマにはざっくり西側を管轄するローマ教皇と、ざっくり東側を管轄するコンスタンティノーポリ総主教がいました。
どちらも同じキリスト教なのですが、あんまり交流がなかったりしたので、互いの解釈違いがどんどん拡大していきました。
東方厨と西方厨はたがいに諍い合い、1054年にはついに互いが互いのアタマを破門するという出来事が起こりました。
これによって、カトリックからブニっと分裂して東方正教会が成立します。
この分裂はキリスト教分裂の中で特に大きな分裂だったので「大シスマ」と言ったりするそうです。
この二者はしばらくめちゃくちゃ仲が悪い時期が続き、軍隊を送ってぶっ殺し合ったりとかしてました。イエスくんも悲しんでるよ。
3.「キリスト教」の分裂②:宗教改革
時代は下って15世紀、イエスくんの時代から1500年が経った頃……
カトリックはゴミカス化していました。
※あくまでも当時
さきほど東方厨と西方厨が軍隊送って殺し合いをしてると言いましたが、基本的に軍隊を送り込んでるのは西方厨のほうでした。十字軍というやつですね。
とはいえ、正教会信徒が殺害の対象になった遠征はそう多くありません。基本的にはイスラム教徒との戦いであり、東方厨はメイド長のパッドがどうとか言ったときだけ殺されていました。
ていうか、そもそもヤハウェの教えである十戒には「汝殺すなかれ」という文言があります。キリスト教はユダヤ教のもとに立脚しており、そんなユダヤ教のいちばん大切なルールが十戒です。つまり十戒の教えはキリスト教徒にとってもめちゃくちゃ大切なものなのですが、にもかかわらずキリスト教徒たるカトリックは軍隊を組織して異教徒をぶち殺しまくっていました。
「そんなことしてもいいの?」と思ったそこのキリスト教徒さん!大丈夫ですよ!
十字軍に参加して異教徒を殺すのは罪じゃありません!むしろ天国にいけます!喧嘩は好きなときにできてしかも勝つ!!
さらにそれだけには飽き足りません。そういう自分たちの行動の矛盾を逆手に取った彼らは
免罪符を売りはじめました。
この免罪符は信者が今まで犯した罪を帳消しにしてくれるパワーをもっていました。
盗んでも、犯しても、殺しても、給付金でパチンコをしても免罪符があればぜんぶ帳消しです。つまり犯罪が金を払えば許されるようになったのです。聖職者はそれでじゃぶじゃぶ金儲け。この免罪符はまさに腐敗の象徴と言ってもいいでしょう。
そんなハチャメチャな状態になったカトリックを公然と批判した人物がいました。
マルティン・ルターさんです。
マルティン・ルターさんは大学の教授でしたが「さすがに免罪符はないでしょ……」となり、免罪符を批判する文書をいろんなところにはりつけて回りました。
教会はこれにブチギレ、ルターに「やめねえと潰すぞコラ」と言いますが、ルターは売り言葉に買い言葉で教会からの勧告書を燃やします。
かくしてカトリックを破門されたルターですが、正論を言う彼についていく人はめちゃくちゃ多く、ついには自ら宗派を立ち上げることになりました。
そんなルターの考えに追随し、今までカトリックに不満を溜め込んでいた人たちが「ぼくがかんがえたさいきょうのきりすときょう」を世界中でぶっ立て始めました。
これが宗教改革です。
例を上げればバプテスト会、カルヴァン派、ピューリタン(清教徒)、イングランド聖公会、…などなど。
こういう宗教改革によって発生したカトリックでも東方系でもないキリスト教教派のことをまとめてプロテスタントといいます。
※イングランド聖公会はプロテスタントではなく、プロテスタントとカトリックの中間とみなすむきもあるそうです
4.現在のキリスト教&ここまでのまとめ
さて、ここまでのお話をまとめると、キリスト教には大きく分けて
・正教会
の3教派があるということがわかりました。
では現代の価値観でそれぞれどういう違いがあるのでしょう。
・カトリック
まずカトリック教会こそ、みなさんがぼんやりイメージするキリスト教そのものだと思います。ロザリオをさげたり、修道女がいたり、姦淫をしちゃダメだったりします。
カトリックは他とくらべるとややルールが厳しく厳格な傾向があります。自給自足と禁欲を是とする修道院と修道女が存在するのはカトリックだけです。神父さんがいるのもカトリックだけですね。
※例外的に、修道院は後述のルーテル教会にもちょっとあるそうです
七つの大罪や「煉獄」(天国に行く前の浄化槽のようなもの。地獄とは別)の概念があるのもカトリックだけです。
そういう意味では一般的な「キリスト教といえば~」が詰まっているのがカトリックだといえます。
・正教会
正教会は、みなさんがイメージするキリスト教とはすこし変わっているかもしれません。
東方正教会においては、聖人の名前や聖句などはギリシャ語で発音します。
「イエス・キリスト」は「イイスス・ハリストス」、「アーメン」は「アミン」などといったぐあいです。
また十字架もよく見る十文字ではなく八端十字架と呼ばれるものが用いられます。
これは普通の十字架の、上側に罪状書きを、下側に足置きを描いた十字架です。
どちらもイエスがはりつけられた十字架の形についていたもので、それをよりリアルに再現した図案といえます。
そして正教会最大の特徴は教会の内装がめっちゃ豪華だということです。
これは僕が昔実際に正教会の教会に出入りしていた時期に司祭さんからうかがった話なのですが、正教会は東方などの異民族に対してさかんに伝導されていました。その中には文字が読めない人も、貧しい人々もたくさんいました。
そういう人々でも、豪華な内装、華美な装飾、壁天井に所狭しと描かれたイコンによって、どんな人でも教会に入ったとたんに神を感じられるようにする工夫だったのだそうです。
伝導の対象がそういう人々だったので、正教会は総じて戒律じみたものはほとんどなく、自由でおおらかな教派だといえます。
・プロテスタント
最初に言っておくと「プロテスタントはこういうの」という特徴はありません。
宗教改革の際にカトリックから分かれた東方系でない教派全体を指してプロテスタントというのであって、プロテスタントすべてに共通して存在する特徴はないといっていいでしょう。
しいて言えば、日本で普及しているキリスト教の多くはプロテスタントだといえます。バプテスト教会やルーテル教会などがそれにあたります。
それぞれの教会は、独自の考え方や教えなどをもっていますが、でも互いにいがみ合ったり否定し合ったりすることはなく、教会が違ってもみんな「キリスト教徒」という連帯感を持って生活しています。いい話ですね。ルターも天国でさぞ喜んでいることでしょう。
・プロテスタント?
ちなみに、冒頭で言った
・チャリンコに乗って話しかけてくる二人組
・学校の前で本を配ってるおっさん
・家に来るババア
は、日本ではだいたい
「末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)」か「エホバの証人」のどちらかです。
この2つは、まぁ、キリスト教です。ですが2つともちょっと変わっていて、「モルモン教」はジョセフ・スミスというアメリカ人が書いた「イエスは昇天するまえにアメリカに寄り道した」という内容の同人誌を聖書と同じくらい大事にしている教会で、「エホバの証人」は「この世はサタンに支配されてていつか神とサタンの最終戦争が行われます」って言ってる教会です。
まぁこの際、どこが異端認定されてるとかなんとかそういう否定的なことを言うのはやめておきましょう。
ただ「家に来たババァにお茶でも出してやろうかな」とか「チャリンコの兄ちゃんたちと仲良くしようかな」と思っている人がいらっしゃいましたら、その前にこの2つの教会について詳しく調べ、出会ったらまず教会の名前を尋ねてからにしたほうが良いかと思われます。
5.キリスト教はこわくない
いかがだったでしょうか。
チャリンコとおっさんとババアのせいでキリスト教に悪いイメージをもっている皆さんは、ぜひこの機会にキリスト教の多様性を知っていただき、もしも更に興味があれば、自分から教会に足を運んでみてください。例のやつが収まってから。
教会は日曜日の朝にはきっと開いています。そして絶対に拒まれることはありません。そしてよくある勘違いなのですが強引な勧誘をされることは絶対にありません。※例の2つ以外は。
キリスト教の歴史はすなわち人類の歴史です。ものすごくエモくて、ものすごく面白いものです。宗教そのものを毛嫌いしている人たちも、いちどパウロやルターが切り開いた現代キリスト教の寛容さに触れてみていただけると、僕としても嬉しいな~と思います。
ちなみに僕はキリスト教徒ではありません。